2005/10/26

Yahoo!ブックス

伊坂幸太郎インタビュー 『魔王』





――ムッソリーニはダンテの『新曲』を愛読していたそうですが、犬養の場合は宮沢賢治です。引用された詩に意外性があって惹かれました。



「小説に詩を引用したのって初めてなんですよ。『生徒諸君に寄せる』(『新編宮沢賢治詩集』所収)という詩に、<諸君の未来圏から吹いて来る 透明な清潔な風を感じないのか>という言葉があって、読んだときにはっとしたんです。僕が若いときにこの詩を聞かされたら、やっぱり、背筋が伸びたんじゃないかなって」



――そう、すごくカッコいい詩なんですが、人の心を動かす言葉には危険な一面もある。"犬養はこの魅力的な詩で若者を扇動するのではないか"という安藤の予想が、見事に的中しますよね。そこがとても怖くて。



「ついに来たかという気分ですよね。『魔王』はそういう緊迫感を感じながら書いていたんですよ。大洪水が来る、みたいな。僕自身はその洪水に抗えるほど強くないけど、洪水の中でも倒れずに立っている一本の木のようなものに興味があるんです。安藤君というこの主人公は抗いたいという意識があって、戦っていく展開になりました。」